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必要経費・損金の立証責任は税務当局と納税者のどちらにある?税務調査と訴訟を個人事業主・法人別に解説

結論からいうと、税務訴訟では、原則として課税要件事実について税務当局が立証責任を負います。

ただし、これはあくまで裁判所で課税処分の適法性を争う「税務訴訟」の話です。

一方、税務調査は訴訟ではありません。税務署が納税者の申告内容や取引の実態を確認し、申告が適正かどうかを調査する手続です。そのため、税務調査では「立証責任が税務署と納税者のどちらにあるか」という訴訟上の問題を、そのまま当てはめることはできません。

税務調査では、納税者が帳簿書類や領収書などを提示・提出し、必要経費や損金として計上した支出について、事業との関連性や取引の実態を説明できることが重要です。

 
  税務調査 税務訴訟
何をする手続か 税務署が申告内容や取引実態を調査する 裁判所が課税処分の適法性を判断する
誰が行うか 税務署などの税務当局 裁判所
立証責任 訴訟上の立証責任をそのまま問題にしない 原則として課税要件事実について税務当局が負う
必要経費・損金 納税者が帳簿書類等を示して、支出の内容や事業との関連性を説明する 課税処分の適法性を判断するため、税務当局が課税要件事実を立証する
納税者に求められること 資料の提示・提出、取引内容の説明 自らの主張を裏付ける証拠の提出
ポイント 「立証責任」より、資料と説明によって申告内容を確認できることが重要 どの事実をどちらが立証するのかが重要



 

税務調査と税務訴訟は、そもそも目的が違う
 

両者を混同すると、「税務署が経費ではないことを証明できなければ、経費として認められる」といった誤解につながります。

税務調査では、税務署が納税者の帳簿や申告内容を確認します。納税者側も、領収書や請求書、契約書などを提示し、取引の内容や事業との関連性を説明することが求められます。

これに対して税務訴訟では、すでに行われた課税処分について、その処分が法律上適法なのかを裁判所が判断します。そのため、裁判上の「立証責任」が問題になります。

したがって、「税務調査では資料と説明」「税務訴訟では立証責任」というように、まず手続そのものを分けて考えることが重要です。



注記:税務訴訟における例外的な取扱い

税務訴訟では、課税要件事実について原則として税務当局が立証責任を負うとされますが、納税者が主張する必要経費について、帳簿に記載されていない経費や通常とは異なる特殊な支出などの場合には、納税者側に具体的な証拠による立証が求められることがあります。
したがって、「必要経費について常に税務当局だけが立証すればよく、納税者は証拠を提出する必要がない」という意味ではありません。立証責任の一般論と、個別の事案で納税者が事実を裏付ける必要があることは分けて考える必要があります。


 

個人事業主の場合|必要経費の立証をどう考えるか
 

基本ルール|必要経費は事業のための支出が前提

個人事業主の必要経費については、所得税法37条が基本となります。

事業所得の計算上、必要経費となるのは、売上などの収入を得るために直接必要となった費用や、販売費、一般管理費など業務上の費用です。

したがって、必要経費として計上した支出については、その支出が事業のために必要なものなのかを説明できることが重要です。


具体的な判断|事業との関連性を確認する

たとえば、10万円の接待・会食費を計上した場合には、
  • 誰と飲食したのか
  • 何の目的で利用したのか
  • 事業とどのような関係があるのか
  • 実際に支払ったのか
  • 金額や支払先に不自然な点がないか
     
などを確認します。

領収書があるだけではなく、取引の内容や事業との関連性を説明できる資料が重要になります。


注意点|家事関連費は合理的な区分が必要

自宅の家賃、電気代、通信費、車両費など、事業と私生活の双方に関係する支出は、全額を必要経費にできるとは限りません。

事業で使用した部分を合理的に区分できることが重要です。

たとえば、自宅の一室を事業専用の事務所として使用している場合でも、家賃全額ではなく、使用面積や使用時間など、合理的な基準によって事業使用分を計算する必要があります。


 

法人の場合|損金の立証をどう考えるか
 

基本ルール|損金は法人の事業に関係する支出が前提

法人の場合は、個人事業主の「必要経費」ではなく、法人税法上の「損金」が問題となります。

法人税法22条では、法人の所得金額を計算するうえで、売上原価や販売費、一般管理費などの損金算入について定めています。

したがって、損金として計上した支出については、その支出が法人の事業のために行われたものなのかを説明できることが重要です。


具体的な判断|法人の事業との関連性を確認する

たとえば、法人のクレジットカードで社長個人の買い物をしていた場合、その支出について領収書があったとしても、法人の事業のための支出なのかという問題が生じます。

また、交際費、役員給与、寄附金などについては、それぞれ損金算入に関する特別なルールがあります。

そのため、法人名義の領収書があるかだけではなく、
  • 法人の事業のための支出なのか
  • 実際の取引内容と帳簿の内容が一致しているか
  • 損金算入を制限する特別な規定に該当しないか
などを確認する必要があります。

注意点|特別な損金算入ルールを確認する

法人では、支出が事業に関係している場合でも、法律上、損金算入に一定の制限が設けられていることがあります。

特に交際費、役員給与、寄附金などは、単に「会社のために支出した」というだけで全額が損金になるとは限りません。

そのため、法人では、事業との関連性に加えて、その支出に適用される個別の損金算入ルールまで確認することが重要です。


 
具体例|10万円の飲食費を必要経費にした場合

個人事業主が10万円の飲食費を必要経費として計上したケースを考えてみます。


税務調査の場合

税務署から、
「この10万円の飲食費は事業のための支出ですか?」
と質問された場合、納税者は領収書だけを提示すればよいとは限りません。

会食の相手、目的、日時、場所、事業との関係などを説明し、その内容を裏付ける資料を提示することが重要です。

ここで重要なのは、税務調査において「納税者が立証責任を負っている」と単純に考えるのではなく、納税者が帳簿書類等を提示・提出し、申告内容や取引の実態を説明することが重要だという点です。



税務訴訟の場合

税務訴訟では、課税処分の適法性が争われるため、課税要件となる事実について誰が立証責任を負うのかが問題になります。

原則として、課税要件事実について税務当局が立証責任を負います。

ただし、具体的な事件では、納税者が主張する経費について、その存在や金額を裏付ける証拠が問題となる場合があります。

※この点については、上記「税務訴訟における例外的な取扱い」の注記を参照してください。


 

立証責任と証拠提出は別の問題
 

立証責任と、証拠を提出することは同じ意味ではありません。

立証責任とは、裁判で最後まで事実の真偽が明らかにならなかった場合に、その不利益をどちらの当事者が負うのかという問題です。

これに対して、証拠の提出や事実の説明は、実際の税務調査や訴訟において、自らの主張を裏付けるために行うものです。

したがって、
「立証責任は税務当局にあるから、納税者は経費の証拠を出さなくてもよい」
とはいえません。

税務調査では、帳簿書類、領収書、請求書、契約書、メールなどを用いて、取引の実態や事業との関連性を説明できることが重要です。


 

まとめ|税務調査と税務訴訟では見るポイントが違う
 

必要経費や損金の立証責任を考えるときは、まず税務調査と税務訴訟を分けて考える必要があります。

税務調査は、税務署が申告内容や取引実態を確認する手続です。

訴訟上の立証責任をそのまま当てはめるのではなく、納税者が帳簿書類等を提示・提出し、支出の内容や事業との関連性を説明できることが重要です。


これに対して、税務訴訟は、課税処分の適法性を裁判所が判断する手続です。原則として、課税要件事実について税務当局が立証責任を負います。

したがって、実務上は「立証責任が税務署と納税者のどちらにあるか」だけを見るのではなく、税務調査では資料と説明、税務訴訟では立証責任の所在というように、それぞれの手続に応じて考えることが重要です。


 

FAQ(よくある質問)
 

Q1.税務調査では、必要経費の立証責任は納税者にありますか?
「納税者に立証責任がある」と一律に説明するのは適切ではありません。
税務調査は訴訟ではないため、訴訟上の立証責任をそのまま当てはめるのではなく、納税者が帳簿書類等を提示・提出し、申告内容や取引の実態を説明することが重要です。


Q2.税務訴訟では、必要経費について税務署が立証するのですか?
原則として、課税要件事実について税務当局が立証責任を負います。
ただし、具体的な事案では、納税者が主張する経費について具体的な証拠による裏付けが必要となる場合があります。


Q3.税務調査と税務訴訟では、何が一番違いますか?
税務調査は、税務署が申告内容や取引実態を確認する手続です。
一方、税務訴訟は、裁判所が課税処分の適法性を判断する手続です。
そのため、税務調査では資料の提示と説明が重要となり、税務訴訟では立証責任の所在が問題となります。


Q4.立証責任が税務署にあるなら、領収書などを保存しなくてもよいですか?
いいえ。
立証責任と証拠を保存・提出する必要性は別問題です。実際の税務調査では、領収書、請求書、契約書、帳簿などの資料によって取引の実態を説明できることが重要です。


Q5.領収書があれば必要経費として認められますか?
必ずしも認められるわけではありません。
領収書があっても、その支出が事業のために必要なものなのか、家事上の支出ではないか、金額や取引内容に問題がないかなどが確認されます。


Q6.法人の領収書なら、そのまま損金になりますか?
いいえ。法人名義の領収書があるだけでは十分ではありません。
法人の事業のための支出であることに加え、交際費や役員給与など、損金算入を制限する特別な規定の適用についても確認する必要があります。


 
2026年10月01日 12:24

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